Dolphin Ver.01
SKYT;Dolphin
 30f 6単弦(E2-B6)。6コース全てが30f仕様。スカラップ加工は施されていない。

 胴材は製作者A.ディミトゥリーウから口外厳禁とされており詳細な組み合わせは不明。重量はストラトキャスター並の軽さだという。ドルフィン完成までの過程でありとあらゆる材を試した他、実験的な意味合いもあってスカイギターは全て胴材が異なるとのこと。棹及び指板はメイプルでストラトキャスターよりやや薄い。

 ソリッド・ボディ型エレクトリック・ギターではハード・メイプルの棹材への使用が一般的だが、スペイン・ギターではハード・メイプルが一般的では無く、むしろロマンティック・ギターやヴァイオリン属の伝統を継承していると言える。 横板や裏板に関しては19世紀後半にA.トーレスが楽器が重くなるのを避けるためとして、ヴィセンテ・アリアス(Vicente Arias)はその耐久性から好んだが、現在のスペイン・ギターでは通常用いられない。ハウザー4世によれば、ハウザー製ギターがウィーン・ギターで使用されていたメイプル製の横板に代えてローズウッド製としたのは、M.リョベートやA.セゴヴィアが、フラメンコ・ギターに使用されるシープレスとメイプルの色が似ている点を嫌ったからとのことで、音響的な理由ではなく思想的なものである可能性があり調査中。シープレスについては「Sky V」参照。

 20世紀アメリカのアーチトップ・ギターにも横・裏板や桿棹材として受け継がれているが、これはエボニー指板との組み合わせが軟らかいローズウッド横・裏板、マホガニー桿棹よりは音色が明瞭かつサステインが豊富なことからスウィング・ジャズ音楽等の合奏や舞曲伴奏に好まれたことが原因とのこと。

 なおハード・メイプルに対してソフト・メイプル(Soft Maple)という呼称も存在するが、こちらは特定の木材ではなくアメリカ花の木(Red Maple)、銀楓(Silver Maple)、ネグンド楓(Box Elder)、ビッグリーフメイプル(Big Leaf Maple)等の総称。

 PUはS-S-H構成でフロントは24・25f下に位置しており、センター共にフェンダー製。指板下にPUを埋め込む方法を思いついたのはA.デミトゥリーウ。リアはダン・アームストロング(Dan Armstrong)製シングルを2基搭載、セレクター下のスイッチでハムバッカーに切り替えられるようになっている。PUはその後ダンカン製のカスタム品が搭載されており、響胴上にザグリが入れられ黒いプラスチック板で固定されるようになる。

 指板の下にPUを設置する手法は当時としては稀有だが、ドルフィン以前の用例が存在するかは確認中。スカイギターでは全機種に採用されており、 それ以外ではスカイギターに影響を受けて製作された特注品に一部見られる程度。出力の問題やフロントとリアとの音量バランスの問題、交換の際の手間等の課題がある。

 市販品では2009年頃にテイラー(Tayler)製T5(Thinline 5 way)で響胴がホロウ構造であることを利用し21f直下にマグネットPUを設置した。多様な音色を出す為の工夫と見られる。

 コントロール系は通常のストラトキャスターと同様、ボリューム×1・トーン×2、3セッティングPUセレクター。下駒はA.ディミトゥリーウによるもの、棹はメイプルの標準サイズで弦長25.5吋(647.7o)でセットネック方式を採用した低音側19f高音側23f接続。1983年完成、5月26日にU.J.ロートに引き渡されている。

 『天空伝説 序章(PROLOGUE TO THE SYMPHONIC LEGENDS)』のライナーノーツでは『天空からの使者(BEYOND THE ASTRAL SKIES)』のレコーディングにスカイギターは使われていないとされているが、実際は3曲のソロパートで使用されており、同アルバム発売に伴う1985年のワールド・ツアー以降1986年までメインギターとして使用された。またサブギターとしては1991年4月下旬でもまだ演奏会に持ち込まれていた。

 高音域のフレット間が狭いことから操作性に問題があり、更なる音域の拡張も含めて2年後に「Mk.II」の製作が開始される。響胴形状、PU構成、音域など基本的な特徴はこのドルフィンで既に試みられており、後継機は具体的な使い勝手の修正といえる。 U.J.ロートによれば当初フェンダー製ギターと同じ感覚で扱っていたがあまり良い音はせずこのギター向けに新しい奏法を考えるようになったとのこと。

Dolphin Ver.03
―Ver.2―
 使用されなくなってからも長い間U.J.ロートの手元にあり、後にS-S-H配列のメガウィング(後述)が搭載されている他、指板も交換され31f仕様27f以降全音間隔に変更されている。1994年にはサハラ(SAHARA)のフィル・ウッドウォード(Phil Woodward)に貸与され、同バンドのアルバム録音に用いられたが、音色はメガウィングによるものと思われ確認中。搭載されたメガウィングは5コントロールなこと、91年2月時点ではまだダンカン製PUなことからメガウィングが搭載されたのは1991年2月〜1994年頃と推測される。

―Ver.3―
 現在は2003年にドイツ連邦共和国(ドイチュラントBundesrepublik Deutschland)のノルトライン=ヴェストファーレン(Nordrhein-Westfalen)州グローナウ(Gronau)に設立されたロック&ポップス博物館(Rock-n-Pop Museum)に長期貸与され、2004年以降同施設において展示されている。展示に際して仕様は変えられていないが、再塗装を施したとのこと。

 「スカイギター」とは当初このドルフィンを指していたが、2本目完成以降はスカイ・エレクトリック・ギター・シリーズの総称として全てに使われており、特に1号機を指す場合は「スカイ・ワン(Sky I)」や「最初のスカイギター(the first Sky guitar)」、「試作品(Prototype)」と呼ばれていた。ドルフィンという名称の使用が公に確認されたのは2003年から。英語で鯆(海豚, イルカIruka)を意味するが由来は不明。響胴の彩色から連想してつけられたものと思われる。なお完成当初は「ピースブリンガー・ギター(Peacebringer Guitar)」という名前で、 「スカイ・ギター」を提案したのは当時マネージャーだったデイヴ・コーク(Dave Corke)。旅先からの帰りの飛行機の中だったという。その後はギターに関わらずスカイ・オーケストラ(Sky Orchestra; 録音時等に編成する楽団)、スカイ・コンチェルト(Sky Concerto; 自作の協奏曲)、スカイ・アンプ(Sky Amplifier; 主に交響楽団共演時に使う機材)、スカイ・アカデミー(Sky Academy; マスタークラスとコンサートから成るイヴェント)、スカイ・レッスン(Sky Lesson; 音楽に関する講義)、スカイ・クッキング(Sky Cooking; 自作の野菜炒め)等U.J.ロートによって多くのものに「スカイ」の名が冠されている。

※ドルフィンver.1を聴くことの出来る音源
 Uli Jon Roth & ELECTRIC SUN 『BEYOND THE ASTRAL SKIES』(1985年, EMI) #4「I'll Be There」, #6「Icebreaker」, #7「I'm a River
 Uli Jon Roth 『THE BEST OF ULI JON ROTH』(2006年, SPV) CD2-#16「I'm a River」, CD2-#17「I'll Be There
 Uli Jon Roth 『THE BEST OF ULI JON ROTH』(2007年, Marquee) CD1-#12「I'm a River」, CD1-#13「I'll Be There

※ドルフィンver.1を視聴可能な映像
 Uli Jon Roth & ELECTRIC SUN『BEYOND THE ASTRAL SKIES』#1「The Night the Master Comes」のシングル 発売に際して収録されたビデオクリップ(1985年)にも映像としては確認可能(音源自体はドルフィンで録音されたものではない)。なお、このビデオクリップは 2005年に再販された『BEYOND THE ASTRAL SKIES』にボーナス映像として収録されている。
 Uli Jon Roth & ELECTRIC SUN 『THE MASTER ARCHIVE vol.1 Receda, CA 17 May 1985』(2006年)


※ドルフィンver.2 or 3を聴くことの出来る音源
 SAHARA 『THE SEVENTH HOUSE』(1994年) 「Aquarius」※Liz Vandallの公式my spaceで試聴可(無料)

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